先日、患者さんが「今まで処方していただいたこの漢方薬を飲んでなんともなかったのですが、最近薬が舌にピリピリとするようになったので、処方が何か変わったのでしょうか?」と言われました。この薬とは人参湯で、生姜を蒸した乾姜という生薬が入っているので、確かに辛味でピリピリしても不思議ではないのです。ところがこの方は、2年ほどこの人参湯を飲んでいたのですが、なんともなかったのです。これは薬が体質に合っていたため、辛味が気にならなかったのだと思います。ところが最近ピリピリと辛味を感じるようになったということは、処方内容が変わったのではなく、体質が変わり、薬が合わなくなってきたと考えられるのです。

以前ここで「良薬は口に甘し」ということについて書きました(調べたら2018年1月で暇だったら見てみてください)。からだに薬が合っていれば薬は美味しく感じるが、逆に合わないとまずく感じるという話です。それが起きたのだと思います。この人参湯は、身体の芯が冷えている人に使うことが多い薬です。その中の乾姜は身体を温める主薬なので、身体が冷えている時は身体に合っているわけで、美味しく感じるはずです。しかし冷えが改善して身体が温くなった状態で乾姜を飲むと、身体が温まりすぎるので、乾姜を拒否して辛く感じてしまうと思われます。つまり、この方は冷えの体質が治ったので、乾姜が温めすぎるのを身体が嫌がっているということです。したがって処方を変えました。

漢方薬は体質が変わったり、身体の状態が変わると、今までと違って薬が飲みにくくなるなどの変化がしばしば起きます。こういうことに注意すれば、漢方薬は飲み続けてもトラブルが起きることは少なく、安心して使いやすいものなのです。

蛇足ですが、冷え症の人はトウガラシやスパイス類などの辛い物が好き、あるいは辛いものに強いことが多いです。トウガラシはダメという場合でも他の辛いものは大丈夫という人が多いです。「良薬口に甘し」と同じことです。辛いものが好きではない人は「本物」の冷え症ではない可能性が高いです。

田中医院