先日、患者さんから「疲れがひどく食欲もないので何かよい漢方薬はないですか」と相談され、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という漢方薬を処方しました。これは、疲れて身体を動かすのもおっくう、というようなときにしばしば使われる有名な漢方薬です。疲れているとき、いわゆるドリンク剤を飲む人もいますが、ドリンク剤はカフェインの覚せい作用で一時的に元気になるだけで、食欲は出ませんし、薬が切れるとさらにだるくなります。補中益気湯はこれとは違い、飲むとだるさがとれ、食欲も出て元気になります。そういう漢方薬なので、その患者さんに処方したのですが、結果は予想に反して、飲むと眠くなってしまうといわれました。補中益気湯は疲労を回復する薬なので、現代医学的に考えると、おかしなことです。しかし、漢方では期待する作用と反対の作用がおきることは、以前このブログでも「漢方の実験」のところで書きましたが、しばしばあることなのです。

私も補中益気湯をときどき飲みます。疲れているときに飲むと元気になり、食欲も出てきます。しかしときによっては眠くなることが、やはりあるのです。この薬を飲んで眠くなるときは、眠気に逆らわずに寝るとよいのです。気持ちよく眠れ、目覚めると疲労回復して元気になっています。補中益気湯を内服して眠くなる場合は、睡眠がうまく取れない、疲れているにもかかわらず眠りが浅い、寝つきが悪いなど睡眠がうまくとれないときなのです。つまり結果的にはやはり疲労回復して元気になる薬なのです。

しかし、元気になる薬を内服したにもかかわらず、なぜ眠くなることがあるのか?です。この不思議な作用については、私はこう理解しています。漢方薬はからだの一部ではなく、全体に働きかけるのです。すると、からだ(薬ではないところがポイントです)が、それに応じて元気になるように働くのです(現代薬では薬が元気になるよう働きます)。ということは、からだに元気になる余力がある場合は元気になりますが、余力の無いときは疲れを回復させてから元気にする方向に働く、つまり眠って回復させるということになります。現代薬はからだがどういう状態であろうと、無理にでも動く方向に作用してしまいますが、漢方薬は体の状態に応じてその作用が違い、からだに合わせて働くので副作用が生じにくいともいえます。

田中医院