めちゃくちゃに暑い夏も落ちついてきたようで、ホッとできるようになってきました。涼しくなってくると、暑さで痛めつけられた体が、回復しようとして食欲が出ます。「食欲の秋」です。傷んだ体を回復するのによく食べることはいいのですが、飽食の時代なので、つい食べすぎてしまいます。そこで「腹八分目」というお話です。

「腹八分目」という言葉は、『養生訓』という本に出てくるのが、最初のようです。この本は江戸時代の貝原益軒(かいばらえきけん)という人が書いたもので、本に書いたことを実践していたためか、この人は実際長生きをして、84歳まで生きています。

長生きに腹八分目は重要なことか?ということになりますが、科学的には、条件が付きますが、腹八分目にするほうが長生するというのが結論のようです。20世紀の初めにラット(大き目のネズミの類)で行われた実験が最初で、好きなようにえさを食べさせたラット群と食べる量を制限したラット群の寿命を比較したのです。すると、食餌制限したほうが長生きだったのです。これに続いて、いろいろな動物実験も行われましたが、やはり食事制限をしたほうが長生きで、腹八分目は本当だということになりました。

そこで、食事の中身の何が大事なのか?ということが研究されました。食べる量を減らすとよいのですから、カロリーを制限が大事のように思われます。3大栄養素である炭水化物、脂質、タンパク質にそれぞれカロリーがありますが、その総量を減らせばよいと思われました。しかし、ある特定の栄養素が寿命に大事という可能性もあります。そこで、特定の栄養素を制限したり、カロリーを減らしたりいくつかのケースで、実験が行われました。すると、その結果は予想外の結果で、驚いたものとなりました。なんと、カロリーを制限しても寿命には関係なく、タンパク質を制限したものだけが寿命が延びたのです。私たちの常識として相反するような結果でした。この結果から甘いものを食べていればよいのかと思われてしまうかもしれませんが、それ違います。過剰にカロリーを取って太ってメタボになったら、寿命は短くなりますし、偏った食物の摂取は栄養不足となり、やはり寿命は短くなります。この実験は、やせすぎにならず、太らないレベルでカロリーを減らして、タンパク質を取りすぎなければ寿命が延びるということです。しかし人間の場合、高齢者はタンパク質を多めに摂るのが推奨されていますし、実際多くとっている人の方が長生きです。実験結果と異なっているのは、実験は若い動物で行われており、高齢の動物ではないからです。タンパク質制限で寿命が延びる効果というのは、人間では65歳以下の話で、それ以上の場合は関係ないようです。

要するに、65歳を超えていたら、腹八分目に意味はなく(ただし太るのはだめです)、タンパク質も多めにとったほうが良いということです。若い人の場合は、腹八分目は寿命を延ばす効果があり、タンパク質の取りすぎはよくない(多少ひっかかりますが)ということになります。

田中医院