甘草で血圧が上がりました
先日、患者さんに「自宅で測っている血圧が高くなったので、血圧が高くなるものが入っている漢方薬を中止しました」と言われました。「血圧が高くなるもの」というのは、生薬の「甘草」のことのようですが、この生薬自体に血圧を上昇させる作用はありません。この甘草が副作用として偽アルドステロン症という病気を起こし、その結果、血圧が上がることがあります。つまり、偽アルドステロン症をおこしていないのなら、甘草のため血圧は上がりません。したがって、漢方薬をやめる必要はないし、やめるのは間違いなのです。甘草が入っていない漢方薬で、「甘草で血圧が高くなった」といわれる方もいるのには閉口しています。
甘草で血圧が上がる場合は、偽アルドステロン症という病気が起きるからです。これは手足のだるさ、しびれ、こわばり、力が抜ける感じ、筋肉痛などの症状があり、血液検査でカリウム値の低下、血漿アルドステロン濃度の低下などが検査で認められます。私の経験では、滅多に起こるものではありません。しかし、薬局などで「甘草の入った漢方薬の副作用として血圧が上がることがあります」というような説明をしていると思うのですが、これは患者さんの不安感をあおり、血圧の上昇に対して過敏となってしまう気がしています。血圧が少しでも上がると、「漢方薬の副作用では?」と心配するのは当然です。ただ、ここで問題は、血圧は体温などと違い、絶えず大きく変動しているので、血圧が本当に上昇したかどうかという判断はかなり難しいのです。寝不足、過労、ストレスなどで血圧はすぐに上がりますし、「血圧が高い」と心配しながら測れば、不安感からも高くなります。例えば、仕事が忙しくなった時期と、漢方薬を飲み始めた時期が一致して、血圧が上がってしまうと、それは、漢方薬の副作用のため、ということになってしまうのです。
最初の方の場合も、話を聞くと、仕事が忙しくなったために血圧が上がったようですが、とりあえず甘草の入った漢方薬は中止して様子を見ました。ここで「忙しいために血圧が上がったので、漢方薬は関係ありません」と言っても、納得してくれる人は少ないです。面倒ですが、一回中止して、経過を見て、漢方薬は関係ないことを確認してもらっています。
本当に血圧が上がったどうかの判断は難しいです。