コロナ禍のためか、「時々免疫力を上げたいので○○湯をください(補中益気湯や十全大補湯といわれることが多いです)」といって来院される方がいらっしゃいます。インターネットや漢方の本を参考にして○○湯と指定されるのだと思います。○○湯が免疫力を上げるというのは実験的には正しいのかもしれませんが、漢方薬を実際の人に使用する場合は、正しくはないのです。つまり、○○湯を飲んでも必ずしも免疫力は上がらないということです。

なぜかというと漢方の治療というのは、からだ全体を診てその歪を探し、漢方薬によって歪を正し、全体の調和を取って病気を改善するものです。からだの調和が取れれば体調も良くなり、その人の持っている免疫力は高まります。さらにそこへ免疫力を上げる生薬が、あと押しをして、さらに免疫力が高まるというわけです。つまり、人によって体質は違いますから、薬は人によって当然異ならなければなりません。○○湯を飲んでも体質に合っていなければ、身体全体の調和は取れないので、から全体の調子を整えて免疫力を上げるというところがうまくいかないわけです。生薬が持つ免疫力を上げるという作用だけで免疫力が上がるわけですが、思ったほど効果はないのです。体質にあっていない薬を飲むと逆に害となる場合もあります。例えば丈夫で元気な人が朝鮮人参の入った漢方薬を飲むと、血圧上昇や不眠、頭痛などの副作用が生じる可能性もあります(この場合副作用というより誤治といったほうがよいですが)。この場合当然免疫力は上がらないと思います。

「免疫力を上げる漢方薬、○○湯」などとあっても、自分にあっているかどうかよく見極めるべきです。体質にあった漢方薬を飲むのが大事なのです。体質に合っていれば、免疫力は上がります。

免疫力を上げることを考えるのでしたら、免疫力を下げることをしないことも重要です。私の経験では、漢方薬を飲んでいても、過労や寝不足などをすれば、免疫力は思ったほど上がっていないようです。以前、漢方薬を飲んでいたにもかかわらず過労と寝不足もためかインフルエンザにかかってしまったことがありましたから。

田中医院