初診で「漢方薬の○○湯を処方してください。××に効くみたいなので。」というような方が時々いらっしゃいます。

困るんですよねー。 というのは、診察してご希望する漢方薬がその方に適したものであれば、何も問題はないので、そのまま処方しますが、その漢方薬はどうかな?と思うときがあるからです。この場合、ご指定の漢方薬に疑問を示し、違う処方をお勧めします。そうすると、返事に2通りがあります。「いや、○○湯を試してみたいので、○○湯をください。」という人と、「先生がそうおっしゃるなら、そちらに変更します。」といって当方が示した処方を持っていく人の2通りです。前者の場合、たいていの場合効果なく、「漢方薬は効かない」と思われ、漢方をやめてしまう人と、やはり効かなかったと思って再来してくれる人に分かれます。実はこの場合はどちらも問題ではないのです(漢方薬は効かないと思ってやめられるのは問題かもしれませんが)。

意外かも知れませんが、処方の変更に応じてくれる後者の場合が困るのです。なぜかというと、患者さんは当方の処方でよいといってくれましたが、多くの場合、自分が希望した漢方薬の方が良いのではないか?と心の中では疑心暗鬼になっているのです。そういう心理状態で薬を飲んでいると、薬とは関係のないたまたま起きた不都合な症状に対し、薬が合っていないのでは?と思いがちになるのです。また飲んでも症状がすぐに変わらないと、薬が効かない、やはり自分が希望した漢方薬の方がよかったなどと考え、効く薬も効かなくなってしまうのです(プラシーボ効果の逆が起きるのです)。当方が出した漢方薬が不適であれば、処方を変更して出せばよく、問題ないのですが、適しているにもかかわらず心理的影響で効かないとなるというのが、一番困ったことになるのです。なぜかというと、出す処方がないからです。本来は適している薬なのに、効果がないと思われているので、その処方を出せないのです。無理やり別の処方をしても、違う方向の薬になってしまい、治療はうまくいきませんし、最後は何がなんだかわからなくなります。例えば患者さんは腎臓が弱っていると判断され、それに適した処方をしても、その薬が効かないとなると、それ以外、例えば腎臓ではなく肝臓が悪いと考え、治療が違う方向に向かいます。この薬が効かないと、さらに違う薬を出すことになり、もっと違う方向に治療は行ってしまうのです。結局は治らないことになります。

こうなることを避けるため、患者さんがある漢方薬を希望されたら、最近は結果を考えず、大概は、その漢方薬を出すことにしています。

蛇足ですが、これは患者さんと信頼関係がないときにおきることで、信頼関係がある場合、対応は異なります。

田中医院