「たくさんの漢方薬がありますが、一番おいしくない漢方薬は何という薬ですか?」と聞かれたことがあります。漢方薬の場合、まずい薬といわれていても、体質にあっていると意外においしく飲めてしまいます。そのため人によって大きく評価が違うので、答えは難しいのですが、体質にあっていてもまずいのがありました、呉茱萸湯という漢方薬です。エキス剤にもあり、「31」の番号です。偏頭痛にしばしば処方される薬ですが、煎じ薬で処方するときは、まずいということをよく説明してから処方します。そうしないと、あまりのまずさに患者さんは驚き、一回で飲むのを止めてしまうことがあるからです。北里東洋医学研究所で矢数道明先生の診察をお手伝いしていたとき、矢数先生が煎じではなく、エキス剤の呉茱萸湯を処方されたことを覚えています。北里東洋医学研究所は保険が効かず自費なので、保険でもらえるエキス剤の処方では損なので、特別な理由がない限り煎じ薬を処方します。そこをあえて飲みやすいエキス剤にされたのは、矢数先生は飲みにくいのを配慮されてだと思い、印象的でした。

呉茱萸湯の何がまずいかというと、呉茱萸という生薬がまずいのです。ミカン科の植物の実なのですが、未熟な青臭いミカンの苦い味がするのです。苦い生薬はいろいろありますが、この呉茱萸の苦味は抜群のまずさで、においがそれを増幅しています。その他のエキス剤の漢方薬では温経湯(106番)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38番)に呉茱萸が入っていますが、量が少ないのと他の生薬の量が多いので、それほどまずくは感じないようです。

エキス剤の呉茱萸湯はまずいですが、煎じ薬に比べると、まあ飲めると思います。先日、エキス剤の呉茱萸湯を処方した患者さんがいたのですが、処方してから次に診察に来たとき、「呉茱萸湯まずかったでしょう?」と尋ねたら、なんと!「おいしかったですよ、飲んだ後のあのにおいもいいです」という返事をもらいびっくりしました。身体に合っていると、まずい薬でもおいしく感じるのだと改めて知りました。

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