寒くなってきたので、身体を温める食べ物の話です。

一般の方はなんとも思わないことかもしれませんが、私が漢方薬のことが少しわかってきた頃、唐辛子が漢方薬に入っていないことに気がつきました。温める作用が強く、健胃作用もあるので、生薬として使われて当然なので、不思議に思いました。よく調べてみると、日本では一応、生薬の中に入っていますが、主に外用剤として使われ、漢方薬として使われません。驚いたことに、本場の中国では漢方薬としても、生薬としても記載されていないのです。どうやらこれは、歴史的なことが関係しているということがわかりました。

世界的な香辛料となっている唐辛子ですが、アメリカ大陸が原産で、世界に広まるようになったのはコロンブスのアメリカ大陸発見からといわれています。肉料理に欠かせない高価なコショウに代わって唐辛子がヨーロッパで急速に広まったのです。日本にはポルトガルから伝わった、あるいは秀吉の朝鮮出兵のときに伝わった(逆に朝鮮に伝えたとも)言われています。要するに、中国も日本も唐辛子が伝わったのは17世紀頃で、「遅い」のです。日本で使われる漢方薬は3世紀頃成立した『傷寒論』から明の時代くらいまでのものがほとんどで、新たな生薬が入る余地がなかったからのようです。身体を温める生薬や健胃作用のある生薬はたくさんあるので、使い方や相互作用がまだよくわからない唐辛子を使う必要がなかったからと考えられます。

辛いことで有名な四川料理ですが、今の形に発展したのは唐辛子の伝わったのが17世紀ころからのようです。それまでの辛味は山椒(花椒)だったのだと思います。料理の世界では新しい唐辛子を入れて新たに発展したのに、漢方薬は取り入れることができなかったのは残念です。

寒くなってきたこの時期には、身体を温める唐辛子をとることを勧めます。特に冷え症の人は唐辛子をなんにでも使うとよいです。ただし、健胃作用があると書きましたが、逆に胃を悪くする人もいるので、注意してください。こういう二面性があるのは、以前にも書きましたが、漢方薬の特徴です。

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