症例 2
久々に症例、たぶん2回目です。症例は皆さんの参考になると思うのですが、記載されたご本人がどう思うか心配であまり書いていません。しかし、今回は、患者さんが全く効くと思っていなかった症状に、漢方薬が効いたことに驚かれて、記載の了解がありましたので書くことにしました。「歯が浮く」、「歯が痛い」のが治ったという例です。患者さんは中年の女性です。「歯が痛い」などの症状で漢方薬を飲み始めたのではなくて、別に疾患があり、その影響か更年期の症状や身体のだるさなどで漢方薬を内服していました。事情があって、一時漢方薬が内服できなくなってしまいました。中止してしばらくしてから、強い歯痛がおきました。虫歯かと思い歯医者に行きましたが、歯には異常なく、「神経的なものでは」といわれ、痛み止めなどで歯の痛みはそのうち落ち着きました。状況が変わり、また漢方薬を飲めるようになったので、更年期症状やだるさのため、漢方薬の内服を再開しました。あるとき、疲れがひどかったので、今まで飲んでいた半夏瀉心湯という漢方薬から補中益気湯という漢方薬へ薬を変更しました。すると何日かして、以前起きたものと同じ「歯痛」がまた起きたのです。以前のときも漢方薬を内服しなくなってから「歯痛」が起きたので、患者さんはもしかして、半夏瀉心湯を中止したためではと思い、残っていた半夏瀉心湯をためしに内服してみました。すると、驚いたことに、「歯痛」が治まったのです。そこで、半夏瀉心湯がなくならないうちにと、当院を再診されました。診察してみると、前回に補中益気湯を処方したときと状態は違っていました。大げさな表現ですが、からだ中が半夏瀉心湯の使用を求めている状態になっていたのです。そこで半夏瀉心湯を処方しましたが、経過はよいようで、「歯痛」や「歯が浮く」ことはないようです。
東洋医学では胃の症状が口腔内に出ることはあたりまえのことと考えます。例えばアフタ、いわゆる口内炎なども胃が熱を持つため生ずると考え、口腔内の薬ではなく、胃の熱を冷ます薬が一般には処方されます。舌に苔がつくのも胃の状態の現れと考え、舌ではなく、胃に対する薬の処方を考慮します。そう考えると、「歯痛」や「歯が浮く」ということに効くことに漢方薬が効いても不思議ではないのですが、かなり珍しいことで、私は初めての経験です。実際、この方が「歯痛」や「歯が浮く」という症状で来院された場合、半夏瀉心湯を処方したかというと、あまり自信はありません。
勉強になった症例でした。