1日に何回トイレ(尿)に行きますか?現代医学では回数が極めて少ない、あるいはかなり多いというとき以外、排尿の回数を重視する事はあまりありません。それに比べ、漢方ではその回数は診断に重要な情報になります。例えば、下痢をしばしばするので漢方治療して欲しいと患者さんが来院されたとします。その場合、排尿の回数は重要な情報です。水分を多く取っているにもかかわらず排尿回数が少なければ、からだに水が溜まっていると考えられるので、溜まった水が出ようとして下痢すると漢方では判断します。そうするとこの下痢は、腸などにトラブルがあって起きる下痢というよりも、からだの中のあまった水が、出口を求めて起きる下痢と考えます。したがって治療は「からだにあまっている水をさばく」という方針となり、それに適した処方がなされます。逆に、水分摂取と排尿回数が等しいと思われるときは腸などにトラブルがあるため下痢が起きると判断し、腸に作用する処方を中心として考えます。このように排尿回数は処方を決定する際、重要な情報となるです。ところがここで、患者さんに排尿回数を少なく申告されると、水分があまっている下痢と判断してしまい、治療を誤ってしまうのです。実際にはこれほど治療方針は単純ではないのですが、排尿回数は重要な処方決定の要素なのです。また下痢に限らず他の疾患でも重要な情報です。

なぜこんな話をするかというと、患者さん(特に若い女性)に1日何回トイレに行きますかと聞いても、恥ずかしいのでしょうか、しばしば少ない回数を答える方が多いからです。

「トイレに1日何回行かれますか?」

「普通です」

「1日何回くらいになりますか?」

これに対し、なぜか1日4か5回と答える人が多いのです。起床時と寝る前の2回は誰もが当然とすると、起きている間に2-3回ということになり、現代医学では問題ない回数ですが、漢方では、「普通」ではなく、水分摂取の多い現代では、少ない方になります。「普通」という答えと矛盾するので、確認のため、患者さんに一日を思い浮かべてもらって、トイレの回数を数えてもらいます。すると、ほとんどの人が4-5回より多くなります。一般の人には排尿回数など些細なことと思えるのでしょうが、漢方処方には重要なのです。

他の症状などから総合的に判断するので、必ずしも処方を間違えるわけではありませんが、正確な数字を答えてもらえると、ありがたいのです。

田中医院