私も一目置くある漢方の先生の話ですが、生理痛で困っている患者さんに呉茱萸湯を処方しました。処方された患者さんは、よせばいいのに、知り合いの薬局の人に処方してもらった薬が良いかどうか聞いたそうです。そうしたら薬局の人は「生理痛に呉茱萸湯を使うなんて聞いたことがない」と答えたので患者さんは驚き、結果として処方した先生は文句を言われてしまったという話しです。こういう手の話はよくあるのですが、患者さんも知り合いの薬局の人に聞くくらいなら、その人に処方してもらえばよいのではないかと思ってしまいます。確かに呉茱萸湯というのは片頭痛として有名な薬で、それ以外にはほとんど使われない薬(以前ここでトップクラスのまずい薬だと書いたことはあります)です。「生理痛に効果がある」というようなことを書いた本や解説書はあまりありません。その薬局の人の漢方の知識はその範囲内と思われ、本などに書いてなかったので生理痛に使うことが信じられなかったのだと思います。しかし何度も言っていることですが、漢方薬というのは症状や病名で処方する薬ではありません。身体全体の歪を正して全体の調和を取り、病気を治す治療なのです。薬局の人は、ここをわかっていないようです。つまり病気が何であっても(生理痛であろうと片頭痛であろうと)、身体の歪の状態が同じなら、漢方は同じ薬になるのです。したがって、珍しい使い方をすれば(腕に覚えのある先生しかできませんが)漢方の解説書にその病名が載っていなくてもおかしいことではないのです。

現代医学ではまったく別の薬になると思われる、こういう予想外の使い方で有名なのが、葛根湯です。これは風邪薬としてよく知られていますが、なんと、母乳が出ないときにも使います。風邪薬が母乳を出すのに使われ、知らない人は驚きますが、これも全体の歪を正すということで漢方の処方を考えると驚くことは何もないのです。

漢方をよく知っている先生の処方した薬が、効能書きやインターネットで調べても、あるいは漢方を少し知っている人などに聞いて、自分が治してもらいたい病気とは関係ない薬を処方されたように思えても、気にしないでください。現代医学の病名は漢方の世界では関係のないものなのです。

田中医院