先日、北朝鮮の新型コロナ感染症の拡大が報じられましたが、治療にはヤナギの葉を煎じて飲むというのが推奨されていると報道されていました。北朝鮮の医療がいかに貧弱かわかる話ですが、いまさらヤナギを煎じるのかと思いました。こんなものに効果があるのかと思われるかもしれませんが、ヤナギの鎮痛剤としての歴史は古いのです。ギリシア、ローマの時代からヤナギの樹皮(葉ではありませんが同じです)は痛みのあるような疾患に鎮痛などを目的として使用されており、東洋でもヤナギの枝で歯間をこすると痛みが改善するというのが知られていました。ヤナギは「柳」とも書きますが「楊」とも書きます。ヤナギの枝というのは「楊の枝」と書けますが・・・「楊枝(ヨウジ)」「爪楊枝(ツマヨウジ)」ではないですか。ここからヨウジは来ているようです。しかしそれ以外は漢方薬にヤナギはほとんど登場しないように思います。他によい薬があるので、使いにくいヤナギは使われなかったのだと思われます。

西洋の方では痛み止めや解熱剤として使われていました。しかし、ヤナギの煎じ薬は苦く飲みにくいらしく(私は実際に飲んだことはないのでなんともいえないのですが)、これをなんとかしようと発展していきます。近代になって研究が進み、まずヤナギからサリシンが分離され、そこからさらにサリチル酸が分離されました。鎮痛や解熱にヤナギよりよい効果を示したようですが、残念なことに、飲むに耐えるものではありませんでした。そこで、さらに開発が進み、ついに1899年ドイツのバイエル社によって、サリチル酸からアセチルサリチル酸を合成して薬として発売されました。アセチルサリチル酸とは解熱剤、あるいは痛み止めとして知らない人はないくらい有名な「アスピリン」のことです。

というわけで、北朝鮮のヤナギの葉を煎じて飲むという治療は、「アスピリン」を飲むのに近い治療で、あながちでたらめではなく、ある程度の効果が期待できるものです。しかし、昔の治療法であり、効果が安定しないことや飲みにくさ、手間がかかることなどを考えると、アスピリン程度の薬を供給できない医療体制に驚いてしまいます。

蛇足ですが、アスピリンは「ピリン」という名がついていますが、ピリン系の薬剤ではなく、非ピリン系です。

田中医院