先日、葛根湯を処方した患者さんから、「あの薬は眠くなってしょうがないです」といわれました。葛根湯は以前「眠気を覚ます漢方薬」としてここで書きましたが、エフェドリンという覚せい物質が入っているので、眠くなるより目を覚ますはずです。ところが眠くなると患者さんは訴えるのです。私はこれについて別に驚きませんでした。漢方薬は同じ薬でしばしば相反する作用を持っていることがあるからです。以前「漢方薬の実験」で、五苓散には利尿作用だけではなく、身体の状態によっては尿を出さなくする作用もあるということも書きましたが、同じように葛根湯の覚せい作用とは逆の眠くなる作用が顕在化しただけと思います(珍しいことですが)。

必要なものだけを精製して使用する現代薬と違い、漢方薬は生薬として、ほぼ丸ごと使います。そのためいろいろな物質が入っているわけですが、その中に相反する物質が存在しても不思議はないのです。というのも、通常生き物は相反する物質で体の均衡を保っているのです。例えば、人間の身体の中には血圧を上げる物質もあれば下げる物質もあり、利尿する物質もあれば尿を出さなくする物質もあり、生体は状況によってこれを使い分けて生命のバランスを保っています。こう考えると、相反する物質が生物だった生薬に存在しても不思議でも何でもありません。

しかし、相反する物質があったら、効果はプラスマイナスでゼロになるのではと思われますが、不思議なことに片方の作用しか出ません。この理由はいろいろ考えられます。相反する物質の量が違うため、多い物質の作用しか出ないということも考えられますし、生体の方が必要となる物質しか使わないということも考えられます。実際のところははっきりわかっていませんが。

漢方薬は精製せずに、丸ごと使うためにいろいろな物質が存在しているところがポイントのような気がします。例えると、精製した白米より、ビタミンや食物繊維の豊富な玄米のほうが身体によいのに似ている気がします。

田中医院