先日、夜間に身体が冷えて、布団を増やすが寒さが止まらない、という人を診察しました。この方は、最初、近くの病院で検査をしてもらったのですが、特に異常はなく、精神的なものでしょうといわれて、治療はおしまいになりました。しかし、夜間の冷えと寒さは治らないので、漢方で何とかならないかということで来院されたのです。発熱は無く、昼は特に寒くなく、夜中に寒くなる以外の特別な症状は何もありません。

診察をしてみると、身体に水がたまっていることが予想されました。そこで、「水を良く飲みますか」と聞いてみました。案の定、「水分をよく取っています」という返事で、特に汗をかく環境にいるわけではいのですが、1日2Lは飲んでいるとのことでした。他の所見などから、この方は「水毒」と診断しました。水が身体にたまっており、活動しなくなる夜になると、からだの熱産生が低下して、たまっている水でからだが冷えて寒く感じる状態になっているのです。普通、寒気があるとその後、発熱するものですが、この場合は冷えるだけなので発熱はしません。治療はたまっている余分な水をだしてやればよく、この場合、五苓散を処方しました。加えて大事なのが、水分、果物の摂取を控えることです。せっかく排出した水をまた身体に入れたのでは治療の意味がなくなるからです。この方はこれで治りました。

で、ここで言いたいのは、いつも言っている「水分控えましょう」です。巷では「水分取りましょう、水分をのどが渇く前に取りましょう」の大合唱が聞こえてくるようになったからです。高齢者、幼児など脱水を起こしやすい人や炎天下などの暑い環境で働く人などは、水分を適切に取るのは大事なことと思います。しかし、クーラーの効いたオフィスで働いている人が水分をたくさん取る必要はないし、渇く前に水分を取るなどとんでもない話です。身体に水がたまり、不都合を起こします。

水分を取らないため、熱中症になることはありますが、水分の取りすぎは、現代医学ではほとんど病気として認識されません。実際、この患者さんは水分の取りすぎで、漢方では「水毒」という立派な病気になりましたが、現代医学では病気と認められませんでした。現代医学の考えでいくと、「水分過剰に摂取しても病気にならない、取らないと病気になる、したがって水分どんどんとりましょう」ということになるのだと思います。水分過剰摂取で病気になるという考えがあれば「水分取りましょう」の合唱にならないと思うのですが、残念です。

田中医院