良薬口に甘し(続々)
「良薬口に甘し」は、本能に基づいたものだということを前回書きました。現代医学ではこういう考えはありません。薬はまずいものであり、副作用があるのが当たり前、という考えです。漢方では身体にあっていれば薬はおいしく、(必ずしも正しくはありませんが)副作用がないと考える立場と対照的です。現代医学では薬を内服すると気持ち悪くなる、食欲が落ちるなどは、普通にある副作用ということで片付けられます。胃薬を同時に内服してもらったり、投薬するのを中止しておしまいとなります。その薬が患者に適しているから副作用が少ないとか、逆に適していないから副作用が強い等々で処方をどうするか考えることはありません。そういう考え方がないのです。
現代薬は薬をできる限り単一成分にして使います。病気に有効な植物などがあったなら、その中から余分なものを取り除き、一番有効と思われる物質のみに精製し、単一の物質にして使用します。たとえば、柳の樹皮から抽出され、合成されたアスピリンやキツネノテブクロ(ジギタリス)という植物から抽出された強心薬のジゴキシンなどが有名です。こういう精製された物質に対し、本能で良い悪いなどの判断ができるわけがありません。ジャガイモやサツマイモを精製してデンプン粉にしたら、本来の芋のおいしさがなくなり、味気のないものとなり、おいしいまずいなど判断できなくなるのと同じです。本能というのはおそらく今までの遠い先祖からの経験の蓄積と考えられますから、今までに接したことがない新しい物質にはお手上げです。本能を働かしようがないのです。
そういうわけで、現代薬はまずくて当たり前かもしれなく、「良薬口に苦し」が当然のことで、本能を利用する「良薬口に甘し」という考えが入る余地はないのです。現代人は本能を使うことに慣れていないので、本来は「良薬口に苦し」のほうが奇異にもかかわらず「良薬口に甘し」というと、奇異に思ってしまうのです。現代薬に不信感を持つ人はこういうこともあるのかもしれません。