サプリメントを飲む人が多くなってきたので、ふと思い浮かびました。
紀元前頃に書かれた『神農本草経』という薬物の有名な本があります。この本は生薬を上薬、中薬、下薬の3種類に分類しています。下薬とは「病を治す薬で、毒性が強いので、長きにわたっての連用は慎むべき」と説明され、附子や大黄などの生薬125種類が記載されています。これは現代でいう薬のことでは?と思うような説明です。現代薬の頭痛薬や風邪薬などの薬は具合の悪いときにだけ使用し、通常は連用しません。
 中薬は「養生の薬で、人に応じて無毒と有毒があり、適時配合して病を防ぎ、体力を補う」とあり、麻黄や牡丹皮などの生薬120種類が記載されています。現代薬の血圧を下げる薬や糖尿病薬、コレステロールの薬などはこれに近いように思います。たとえば、降圧剤は血圧の高い人には血圧を下げ、益となりますが、血圧が高くない人には血圧を下げすぎて害となります。糖尿病薬も血糖の高いのを下げるので、血糖値の高い人には益となりますが、普通の人には低血糖を起こし、害となります。この分野の薬は最近特に進歩してきましたが、『神農本草経』の中薬に似ていると思います。上薬とは「命を養う薬で、毒性は無く、多量に、長期服用しても人を害することはない。身を軽くし、気力を益す不老長寿の薬」と説明され、人参(いわゆる朝鮮人参)や大棗などの生薬120種類が記載されています。上薬は薬というより食べ物に近いものです。現代では、サプリメントがこれに近いかもしれませんが、サプリメントの過剰摂取は良いものとは思えず、また「身を軽くし、気力を益す不老長寿の薬」とも思えないので、上薬の方が高級な薬と思います。
 ここで感じるのは、現代薬が次第に漢方の考える薬に近づいてきているということです。現代薬は、漢方の下薬(病気のときにだけ飲む薬)に近いものでしたが、次第に中薬(状態に合わせて飲むと、健康に良い)という薬も重視されるようになり、上薬(寿命を延ばす薬)も必要という考えに変わってきました。そう考えると、最近でてきたサプリメントなどよりも、昔からの蓄積データがあり、効果も優れている漢方薬を飲んだほうがいいのでは、と思ってしまうのでした。

田中医院