良薬口に甘し(続)
漢方では「良薬口に苦し」ではなく「良薬口に甘し」というのだと、私は医学生のとき、漢方研究会の顧問の石原明先生からお聞きしました。最近ではしばしば耳にするようになり、多少陳腐な感じになってしまいましたが、そのときはとても新鮮で、感心した覚えがあります。
動物は本能で自分の身体に必要なものがわかります。石原明先生はペットの病気を漢方薬で治療しておられました。その方法は、この動物の本能を利用するのです。つまり、その動物の病気に効きそうな漢方薬を何種類か選び、動物の近くに置いてやるのです。動物は自分の身体に必要な薬が本能的に、においなどでわかるらしく、身体に必要な薬(病気が治癒する薬)のところに行き、その漢方薬を飲む(なめる?)そうです。薬を飲めばしめたもので、その病気の動物は治るといっておられました。
人間も動物なので、この本能があるはずで、身体にあっている薬はにおいも味も良く感じるはずで、それが「良薬口に甘し」なのです。疲れたりすると、甘いものが欲しくなるのも、これと似たようなことだと思われます(ただし、甘いもののとりすぎはよくありません、念のため)。
例外もあります。漢方薬の桂枝茯苓丸を処方した患者さんがいたのですが、粉薬は苦手だというのです。身体に適した薬であれば、おいしく飲めるはずだと思い、粉薬で処方したのですが、理論どおりにいかず、患者さんは薬を飲めませんでした。自信を持って処方したにもかかわらず、予想外の結果にどうするか悩みました。粉薬だから薬が飲めないのか、薬が身体に適していないから飲めないのかわからないのです。迷った末、自分の診断を信じ、処方は桂枝茯苓丸のままとし、粉薬を丸薬に変更して投薬しました。今度は薬の内服に問題はなく、その結果、病気も良くなりました。
漢方薬が身体に合っていていれば、必ず飲みやすいというわけではないようです。逆に、おいしく飲めても、身体に絶対適していると考えてはいけないということも悟りました。