やっと涼しくなってきましたが、夏の疲れが出る時期です。このためと思いますが、風邪が流行っています。風邪といえば葛根湯が有名で、「風邪」という病名の元にしばしば処方されています。しかし、こういう体質や患者の状態を考えないで、病名で処方するのは漢方の考えからすると好ましいものではないのですが、昔は私もそう思っていました。しかし、漢方の大家の故矢数道明先生が患者に「風邪と思ったら、暖かいお湯で顆粒の葛根湯を飲みなさい」とほとんどの患者におっしゃっていたのを聞いたとき、これにはびっくりしました。尊敬する漢方の大先生が、漢方の「証」を無視した「風邪」という病名での処方を推奨するのには。たとえれば、神主さんが祝詞ではなくて、お経を読むのを聞いたような衝撃でした。ところが、矢数先生のまねをして処方してみると意外によいのです。そこで、わたしもしばしば患者さんに風邪を引いたら葛根湯をすぐ飲むように勧めることになりました。

但し、いくつか注意点があります。まず風邪の初期に使うことです。二三日たってからでは遅いです。風邪と思ったときに飲むことです。

次にあまり長く飲まないことです。効果がないと思ったら、一回で中止し、他の薬を考えるべきです。効果を感じても、せいぜい2日程度で終りにすべきです。

3つ目は胃腸が弱い人は、空腹ではなく、食後に内服すべきです。空腹に飲むと胃をいためることがあります。食後に内服しても胃腸の調子が悪くなる場合は飲まないほうがよいです。また、寝る前に飲むと眠れなくなることがあるのでこれも注意が必要です。

最後に当たり前かもしれませんが、咽頭が痛い、鼻水が出るなどの風邪に葛根湯を使うのはよいのですが、いわゆる「おなかの風邪」(吐き気、下痢など)には使わないでください。葛根湯をおなかの症状に使うことはめったにありません。

以上、注意は多いですが、こういうことに気をつければ結構効果があります。

葛根湯に体質が本当にあっている人は上記の注意は無視して大丈夫です。逆に葛根湯が合わない人もいるので、初めて飲む場合は注意してください。特に重い腎臓病や心臓病、肝臓病などがある人は専門家の意見を聞いてからにしてください。

田中医院