「腎臓」が悪い?
「腎臓が悪いといわれました」といって来院するかたがときどきいます。同じように「肝臓が悪い」といわれたという人もいます。こういう場合、検査しても腎臓も肝臓も異常ないことがほとんどです。なぜ異常ないかというと、鍼灸師や薬剤師など東洋医学関係のところで「腎臓」や「肝臓」が悪いといわれているからです。東洋医学関係の人がうそを言っているのかと誤解されそうですが、そうではありません。東洋医学でいう「腎臓」や「肝臓」が悪いといっているのです。つまり東洋医学でいう「腎臓」や「肝臓」は現代医学でいう腎臓や肝臓とは別のものなのです。別のものであれば、検査で異常が見つからなくても当然なわけです。
現代医学でいう腎臓は解剖学が基礎となっています。腰の付近に対になってあるソラマメに似た形をした臓器を腎臓と名づけ、この臓器がどのように働いているか研究されてきたのが現代医学の腎臓です。東洋医学の「腎臓」は生体で内分泌系や泌尿生殖系などの働きをするものとして「腎臓」を考えたのです。具体的な臓器はあとから当てはめただけです。つまり、東洋医学の「腎臓」は、臓器を指しているのではなく、東洋医学でいう「腎臓」の働きのことをいっていると思ってもらえればよいと思います。「肝臓」も同じです。現代医学の肝臓は腹部の右上にあり、横隔膜の下にある大きな臓器を指しますが、東洋医学では自律神経、血液の循環の調整機能などの働きを「肝臓」というのです。
したがって東洋医学で「腎臓が悪い」といったら、内分泌や泌尿生殖系などの働きがよくないということです。現代医学のいう血液のろ過機能などが悪いという意味ではないのです。鍼灸師など東洋医学関係の人は「腎臓が悪い」といわずに「東洋医学の腎臓が悪い」といえばよいのに、現代医学の腎臓と混乱するように「ジンゾウが悪い」というので、誤解が生じるのです。しかしこれは、東洋医学の人にいわせれば、現代医学の人は腎臓といわずに「現代医学でいう腎臓」といえばいいのだ、といわれそうで、こういわれると返す言葉はありません。そもそも腎臓や肝臓という言葉は東洋医学のためにあったもので、それを杉田玄白らが『解体新書』でドイツ語を訳すのに東洋医学の用語を使ったのです。そう考えると、東洋医学の方に優先権があるように思えます。
東洋医学関係の人に腎臓や肝臓が悪いといわれても、驚かないでください。