生薬について 3の続き
前回、「トリカブトは猛毒だが、漢方薬の附子という生薬として使われている」ということを書いたら、「附子に毒はないのですか?」ときかれました。説明が足りなかったようなので、補足しておきます。
エキス剤で使われている附子の毒はまず心配要りません。メーカーが十分管理して、毒性を減らすようにしていますし、使用量も保険では2g程度までなので、トラブルはないです。あったとしたら、毒ではなく副作用だと思います。煎じ薬として使う附子は、加熱したり、塩につけたりするなどいろいろな方法で毒性を減らしたものが使われます。やはり多量に使われない限り、問題ありません。量が多いと、まれですが中毒が起きることがありますが、大きなトラブルにはなりません。購入した附子を念のためもう一度火にかけ、毒性を減らして処方するところもあります。もともとが毒なので、過剰なくらい管理されています。
紙数が余ったので、蛇足です。「2000年ほど前より、東洋西洋ともにトリカブトの毒とサソリの毒が打ち消しあうということが知られていた」ということを「発見」したのは、大塚恭男先生(漢方界で知らない人はない有名な先生です)で、私は医学生の頃にこのことを知りました。医学生のとき東洋医学研究会という漢方のクラブに入っていたのですが、部室になぜか古びたサソリの乾燥品が置いてありました。漢方薬のクラブなので、生薬があるのはおかしくはありませんが、サソリはまず使う生薬ではありませんし、高価で学生のクラブには異質なものでした。なぜサソリがあるのか不思議に思っていました。私が学生の時はそうではありませんでしたが、大塚恭男先生は横浜市立大学の講師でいらして、東洋医学研究会の顧問でした。また部員に優秀な医学生、丁宗鉄先生(しばしばマスコミに登場する有名な先生です)がいらしたので、トリカブトとサソリの毒が打ち消しあう研究をさせようとしてサソリを手に入れたようで、その遺物が部室に残っていたのでした。丁先生からその話を聞かされて、サソリが部室にある理由がわかり、トリカブトとそそりの毒が打ち消しあうことを知ったのでした。40年にはなる昔の話です。