漢方薬の実験
たまには科学的な話をします。蒸し暑いこの時期なので、水はけをよくする薬、五苓散の実験のお話です。
まず、何も処置していないマウス(ハツカネズミ)に五苓散を投与し、尿量を測定してみます。五苓散には利尿作用があるので増加すると思われますが、尿量に変化はありません(正常状態では利尿作用はないのです)。次にマウスのおなかに水を注射して、からだに余分な水を持ったマウスにします(漢方でいう「水毒」の状態です)。そのマウスに五苓散を飲ませると、尿量が増え、身体から余分な水分が排出されます(水毒状態が改善します)。つまり、身体に余分な水がないと五苓散の利尿効果は発揮されないのです。五苓散は身体の余分な水分を出すのに有効なわけで、正常状態ではほとんど薬効を示しません。今度はマウスに水を与えるのを何時間か止めて、脱水気味にします。こうしてから五苓散を与えてみます。どうなると思いますか?不思議なことに五苓散は脱水気味になると尿量を抑え、水分を保持するように働くのです。
現代薬では考えにくいことですが、漢方薬には同じ薬でありながら、相反する作用がしばしば認められます。五苓散は水分が過剰なときは利尿作用が働き、脱水気味のときは、尿量は減り水分を保持する方向に働くのです。これは漢方薬が現代薬のように単一成分ではなく、いくつもの生薬からなるためです。また、水分が過剰状態でないと五苓散は作用しないというのも漢方薬の特徴を示しています。現代薬ではこういうこと考えられません。
「漢方薬を飲んで尿が増えたが、このままでは出すぎて脱水になってしまうのでは」と心配される方がいますが、この実験が示すように余分な水分が身体にあるとき、尿は多くなりますが、余分な水分がなくなれば尿量は正常に戻りますので、尿が出すぎるという心配はないのです。
漢方薬は生体の恒常性を保つ方向に働く薬というお話でした。